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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
89 戻す携帯

 本当にズルい、また、母性がキュンとしてしまった…

「そ、そうなんだ…」
「はい…」
 ホントかわいい奴だ、本当にズルい、そう思ってしまう。
 
「だから、これから頑張りますからっ」
「うん、一緒に頑張ろうね…」
 もし今夜、この後も一緒にいたら、この母性をくすぐるこの雰囲気にやられてしまうのは明白だと思ったのだ。

 よかった、帰るって言っといて…
 心からそう思っていた。

 きっとこの先も油断したらやられてしまうかもしれないな…
 わたしはそう思いながら逃げ帰る事にする。

「じゃあ、帰るわね、また、来週からね…」
 そう言いながら、健太に近寄り、頬にキスをした。

「今夜はありがとう…」
 わたしはそう囁いて部屋を出る。

 そしてこれが今、わたしにできる精一杯の虚勢なのだ。

 ホテルを出でタクシーに乗る。
 外気は深夜1時過ぎだというのに、かなりの蒸し暑さであった。

 ああ明日も暑そうだわ…
 タクシーの後部座席に座り、流れる夜景を見ながらそう思う。
 そしてバッグから携帯電話を取り出したのだが思い直して戻したのである、それは大原浩一部長の声が聞きたくなったのだが、聞いてしまったら逢いたくなり抱かれたくなってしまうのがわかっていたからであった。
 だがしかし、何よりも恐かったのは声を聞いて、もしかしたら罪悪感に心が覆われてしまうのではないかという事であったのだ。
 既に開き直れてはいた、そして済んでしまった事ではあった、だから後悔の想いは殆ど無いのである、だが、例え僅か1パーセントだとしても今夜は罪悪感を抱きたくはないのである。
 
 それにもし罪悪感を抱くのなら、浩一さんに抱かれている時に彼の胸の中や腕の中で後悔をしたい
 そうできるのならばわたしは直ぐに立ち直れる筈なのだから…
 そう想い、電話を掛けるのを止めたのだ。
 
 羽田空港からの深夜発の国際便なのだろう、マンションに着きカーテンを閉めようと窓の外をふと見たら、夜空に向けて飛び立つ尾翼灯の赤い灯りが目に入ってきた。
 
 いけない、情緒不安定気味になっているかも、少しセンチになっている
 明日も朝イチから会議が続くのだ、早く寝なくては…
 そう想いながら急ぎ寝支度を整え、ベッドへと潜り込む。
 既に午前2時半を過ぎていた。

 やばい寝なくちゃ…








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