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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 110 それぞれの日曜日⑤ 松下律子

 このまま離すまい、もう一度惹き込んでやるんだ…
 わたしはそう想い、熱く舌を絡め、想いを吹き込む。
 
 絶対に離さない、まだ帰らせないんだ…
 わたしはそう必死の想いの情愛の想いを込めてキスをしていく。
 しかし、部長は必死にあがく様に唇から舌を抜き、わたしから離れていってしまったのだ。

 ああっ…

「…あ、ああ、ま、またすぐな…」
 そしてわたしから離れ、バツの悪そうな声てそう言って、踵を返して慌てて部屋を出ていってしまったのである。

 バタン…

 その部屋のドアの閉まる無機質な音が、まるで夢から醒めさせられるかの様に現実へとわたしを引き戻してきたのだ。

 急に心が寂しくなった。
 ベッドのシーツにまだ部長の、彼の温もりが少しだけ残っている。
 わたしはその温もりを感じたくて部長の寝ていた跡へと横になるのだ。
 すると目の前に夢の国で買って貰った1番大きな『ダック』のぬいぐるみがわたしを見ていた。

 ああ、浩一……さん…
 わたしは思わずその『ダック』の優しい目に、部長の目を重ねて抱き締めるのである。

 ああ、フワフワして暖かいわ…
 そしてその『ダック』を抱き締めながら立ち上がり、窓のレースのカーテンを開く。

 その眼下には夏の夜の明け方の蒼い海が広がり、船の尾灯、埠頭の灯火、羽田空港の警告灯が点滅し、首都高速に走る車の赤いテールランプが流れて行くのである。
 その首都高速の流れ過ぎて行くテールランプの中の1台に、部長の乗る車があるのだろうと思わず見つめてしまう。
 そしてその走り行く車が、らまるでわたしから逃げて行く様にも感じてしまうのだ。

 逃げる、いや、彼は、部長は、また必ずわたしの元へとやってくるのには違いない…
 それには自信があった。
 それはわたしを抱いている時のあの目を見れば分かるのだ。

 また近い内に、本当に必ず戻ってくる…
 それは間違いはない。

 わたしは彼を、部長を、心から欲しい…
 あの女課長から奪おうか。
 
 いや、奪うのではなく惹き込みたい、いや、魅き込みたいのだ…
 
 でも…

 今はいいの

 でも

 でも必ず

 そう必ず彼を

 部長を

 大原浩一さんを

 必ずわたしに魅かせてみせる

 もう愛してしまったのだから…










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