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第8章 絡まるストッキング2　蒼井美冴

　10　互いの着信

「それに…乗りかかった船だからな…」
　わたしは思わず彼を見つめる。

「でも…
　　　泥船かもしれないわよ…」

「その時は、一緒に沈むさ…」

「……………」

　わたしはその彼の言葉に心が震えてしまう…
　そして彼の胸にしがみ付く。

　ヤバい、愛してしまったかも…
　彼のそんな大人の優しい気持ちに心が魅了されていくのがわかった。
　すると、彼の手が優しく肩を撫でてくる…
　そしてわたしはその手の感触に心が震えてしまう。

　ああ、また抱かれたい、愛されたいと…



　ブー、ブー、ブー、ブー…

　その時、わたしの携帯電話が着信した。

　ディスプレイを見ると知らない番号であった、だが、これは多分健太からの電話であると思われる。
　時刻は午後11時を過ぎている、ちょうどカラオケが終わって解散したタイミングであろうと予想できる時間なのだ。

「出ないのか？」
　大原本部長は意味あり気な目をしてそう云ってきた、多分、誰からの電話なのか予想できている目であった。

「うん…、知らない番号だし…」
　だけどわたしは敢えて、わざとそう云ったのである。


　ブー、ブー、ブー、ブー、ブー…

　すると今度は大原本部長の携帯電話が鳴った。
　この着信は誰からなのか考えなくてもわかる。

「……………」

「出ないの…」
　だから、敢えてわたしはわざとそう訊いた。

「うん、後にするわ…」
　すると苦笑いを浮かべながらそう云う。

　だけどせっかくの幸せな時間が、この電話の着信で終わりを告げられてしまったみたいであった…
　いや、強制終了の合図なのかもしれない。

　すると本部長は、わたしをグイっと抱き寄せて…
「あんっ…」
　そして唇を寄せてくる。

「…あ………」
　そのキスに再びわたしの心が蕩けてしまう。

　ズキ、ズキ、ズキ、ズキ…

　また胸が昂ぶってくる…
　だが、もう、この昂ぶりは安定した昂ぶりといえ、多分、今夜は彼のおかげで落ち着きを取り戻せたようなのだ。
　
　そしてわたしはスッと唇を離し
　「シャワーを浴びて帰りますね…」
　そう云った。

　それには、今夜はこれで終わり、という意味を込めたのである…