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第9章 絡まるストッキング3　　　　　　大原本部長と佐々木ゆかり部長

　48　違和感

　わたしの鼻腔には、彼、大原本部長から漂う、甘いシャネルの残り香が感じられていたのである。

　シャネルのお姉さんか…

　なんか今日は露骨だなぁ…

　なんか今日は匂いが…

　きつい…

　挑戦的に感じる…


　いや、感じてしまう…



　そうなのだ、今日の彼からはいつもよりシャネルの残り香がきつく、強く感じるのである。

　銀座のお姉さんか…

　もちろん、その彼女の姿、容姿等は見たことはない、と、いうか今まで微かに漂う残り香のみが彼女の存在感を浮き立たせ、アピールをしてきていた。
　だが、今朝、彼に会った瞬間から、会話を交わした瞬間から、ある違和感を感じたのである。
　それがこの今まで見たことがないネクタイであり、このいつもより強く、きつく感じるシャネルの残り香なのだ。


　昨夜、彼に対しての愛を、愛情の深さというものを初めて強く実感をし、心が強く揺れ動き、揺さぶられ、昂ぶりによって眠れなくなってしまった。
　そしてその時に初めて自分の孤独感というものを自覚し、寂しさの迷宮に入り込み掛けてしまったところを、かろうじて彼に電話をする
　彼の声を聞く、聞きたい…
　と、いう自分の初めての押さえ切れない心の衝動的な強い想いのままに、深夜２時半過ぎにも関わらず電話を掛けてしまったのだ。

　でも…

　でも、あの電話には違和感は感じなかった…

　感じはしなかった…

　彼のいつもの声が聞くことができて、聴けて、心が震えた、そして妖しく揺れ動いていた心が落ち着いたのである。
　そして電話を切って直ぐに心穏やかに眠れたのだ。

　だから昨夜の電話には、声には、何も違和感は感じなかった…

　感じなかったはずだ…

　いつもは彼の微かな心の揺れをわたしの勘が微妙に察知するのだ、だが、昨夜は何も違和感は感じなかったのである。

　まさか…

　まさか、勘が狂ってきているのか…

　愛情の高まりの自覚によって勘という、レーダー機能が微妙に狂ってきているのだろか。
　愛は盲目という言葉を訊いた事がある。

　まさか…

　まさか、これがそうなのか…

　そういうことなのだろうか…