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シャイニーストッキング
第9章 絡まるストッキング3      大原本部長と佐々木ゆかり部長
 64 嫉妬、楽しみ、恐さ、緊張

「明日があるんですから、あまり…」
 遅くならないように…
 最後は言葉ではなく目で訴えた。

「あっ、う、うん、もちろんさ…」
 大原本部長にはこの目の意味が通じたようで、どぎまぎしながら返事をしてきた。
 今朝のネクタイの趣味といつもより強いシャネルの残り香が、妙に朝から心に引っ掛かっていて、一応、釘を刺しておくのである。
 そうすれば少しはわたしの存在感が彼の心の隅にでも残るのではないか…
 そんな微かな意味を込めたのだ。

 やはり愛というモノを自覚してきた最近は、どうも彼の雰囲気や香り等に敏感に反応してしまうようなのである。
 いわゆる嫉妬心なのであろう。
 だが、わたしは本当についこの前までは、嫉妬等したことがなかったのだ。

 あの『黒い女』つまりは蒼井美冴という存在が現れる前までは…

 そして、今夜、今から、その蒼井美冴さんと二人で食事に行くのである。

 楽しみでもあり、少し恐さ、緊張…が、あった。

「あっ、笠原主任…」
「佐々木部長、お疲れさまです」
「そう、明日会議しますから…」
「はい分かってます、それより掛け持ちで大丈夫ですか」
「ありがとうございます、なんとか大丈夫ですよ、心配してもらって嬉しいです、そうだ、明日、お盆休みの当番決めましょう…」
  コールセンター部は、損保、通販、流通と三業種の請負業務をしているから365日無休なのだ。
 だからこんな長期連休時には社員も、ローテーションで出勤当番を割り振るのである。

「それはありがたいですけど…」
「大丈夫ですよ、明日決めましょう…」
「あ、はい、ありがとうございます」
 なんか笠原主任と話すと落ち着く…
 

「蒼井さんお待たせです…」 
 戻ると武石健太もいた。

「ええー、二人で食事に行くんですかぁ、俺も行きたいです…」
「ダメっ、ジャマっ、シッ…」
 わたしはにべもなく健太に手を振る。

「そんなぁ…」
「ダメよ、今夜は蒼井さんと二人きりなんだから、健太は邪魔、大人しく帰りなさい」
「はぁい…」
「お二人は仲が良いんですね…」
「ま、大学の、サークルの、直の後輩ですから…、じゃあ、蒼井さん行きましょう…」
 わたしと蒼井美冴さんの二人は会社を出てタクシーを拾い、千駄ヶ谷のワインバーへと向かう。

 楽しい夜になりそうである…




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