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シャイニーストッキング
第9章 絡まるストッキング3      大原本部長と佐々木ゆかり部長
 70 『鉄の女』の涙

「そうですよね、誰だってわたしのあの
『黒い女』の話しを訊きたいわよねぇ…」
 わたしはゆかりさんの目を見つめる。
 そして続けた。

「なんか、わたしも…ゆかりさんに話したい気分…」
 わたしは早くもワインの酔いが少し回ってきているようであった。

「ええと…どこから話せばいいのかなぁ…」
 そして少し宙を見ながら独り言のように呟く。

「ああ、もう酔ってきたのかぁ、なんか、ゆかりさんに色々話したくなってきた…」
 
 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ…

 あ、ヤバいかも…
 例の自律神経が少し昂ぶりを見せてきた感じがしてきたのだ。
 だが、いつものあの淫らな、淫乱な疼きは起きていない、どちらかといえば話したい、という欲求のテンションの昂ぶりに近い。

 話そう、話すしかない…

 多分、話せば落ち着く、すっきりするのだと思う…

 よしっ…

「うーん…」
 そしてわたしは意を決して、ゆかりさんの目を見つめて話し始めたのだ。

「ええと、あの『黒い女』はねぇ…」

 わたしは離婚をし、駒澤大学の近くの実家に戻ったところから一気に、そしてテンション高めに話しを始めたのだ。

 そしてゆかりさんはその話しの内容に、驚き、動揺し、感動したかのように最後は涙を流してくれたのだ…

 わたしの最愛の男との出会いから、愛を育む時間の話しから、そしてあの突然の大震災の犠牲になった話し、そしてその心の衝撃で引き籠もり、『黒い女』としてかろうじて社会復帰をし、突然の覚醒までを一気に話してしまったのである。

「…そ、そうなんですか、そんな…」
 なぜか、ゆかりさんの涙が止まらないのだ。
 その彼女の涙が嬉しかった。

「ああ、そんなぁ、泣かないでよ…」
 するとわたしも釣られてしまい、涙が込み上げ、こぼれてしまう。

「なんか、二人して涙流していて、変だわよぉ…」
 確かにいい歳の女二人が酒を飲みながら、昔話で涙をこぼしている…
 決していい絵ではない。

「はぁぁ、ごめんなさい、つい…」
 ゆかりさんは鼻を啜る。

「もお、泣かないでよ…」

「はい、つい…」
 わたしはこんな話しで、まさかゆかりさんが泣くなんて、泣いてくれるなんて思ってもみなかった。

 あの『鉄の女』が、わたしの昔の話しで涙をこぼしてくれている…
 これは予想もしなかった。







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