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シャイニーストッキング
第2章 黒いストッキングの女1
 33 煙草の匂い

 煙草の匂いでわたしの意識は醒めた…

 わたしは煙草は吸わない、吸わない殆どの人は煙草の独特の匂いを嫌がる。
 でもわたしは好きなのだ、煙草の匂いを嗅ぐと過去の様々な思いが甦り、胸が昂ぶってくるのだ。その過去の思いは嫌な出来事もあるにはあるのだが、総じて思い返せば昂ぶる思い出といえる。
 また彼の好む煙草の銘柄の独特の匂いが、更にわたしの過去の様々な想いにもリンクをし、心を誘発してくるのだ。
 だからわたしは彼の煙草の匂いに反応してしまう。
 そして激しく興奮し、欲情し、淫れ、疲弊して、思考力を失ったわたしの脳裏もこの煙草の匂いにだけは反応し、覚醒してしまうのである。
 
 「ううん、この匂い…好き…」
 本当にこの匂いが好きなのだ。

 だから一瞬、心がときめいた、この発した言葉に色々な想いを込めてしまった…

 そして多分、わたしのこの一瞬のときめきに、彼が勘づいたような気がしたのだ。
 しかし、まだわたしは彼から過去に関することを聞かれたくはないし、話したくはないのだ、いや、まだ話す時期ではないと思っている、だから誤魔化そうとした。
 
 「ふぁぁ、なんかノド渇いたしぃ、あぁー、お腹もすいたぁ」
 甘えた声でそう言って話しを変えたのだ。
 そしてうまく流れを変えられ、こうして最上階の鉄板焼きレストランに行くことになったのだ。

 「あぁ、美味しい…」
 冷たい白ワインをソーダで割ったスプリッツアーが、わたしの渇いたノドを潤してくれる。
 程よい白ワインのアルコールがわたしの中に染みわたり先ほどまでの欲情の興奮を鎮めていくようであり、眼下に広がる高層階からの夜景が心をゆっくりと融かしてくれるようであった。
 目の前の鉄板では白いコックコートを着た料理人が、見事な腕前でお肉を焼いていく。
 美味しいお酒と美味しい料理に心が穏やかに和んでいく、
 …はずだった。

 あっ、あの目だ…

 わたしを欲情に昂ぶらせた目を見てしまったのだ。

 「おかわりはいかがですか…」
 白いブラウスに黒のひざ丈のスカートのソムリエを兼ねた女性スタッフがそう声を掛けてきた。

 「うん、そうだなぁ」
 そう言い返す部長の、彼の目が、本当にほんの一瞬なのだが、その女性スタッフの上からそれこそ下の履いているパンプスの先までを見たのだ。

 そうだっ、この目だ…

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