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第11章 絡まるストッキング5　　　　　　和哉と健太

　103　執念…

「あっ、お釣りが、20円あるんです…」
　と、和哉はかなりの動揺の声を漏らしながらレジへと向かって歩いて行った。

「なぁんだぁ、美冴、ここに来たことあるんだぁ…」
　と、そう姉が呟いたのだ。

「あっ、い、いや、この前の会社の飲み会の帰りに、コ、コーヒーを飲もおっかなぁって…
　この前の夜にちょっとだけ寄ったのよ…」
　と、わたしは慌てて言い訳をする。

　ドキドキドキドキドキドキ…


　ついに、和哉に対面してしまった…


　急激に激しく、胸が昂ぶってきていたのだ。

「あっ、これ、この前のお釣りです…」
　と、和哉が20円を持って戻ってきて、わたしの目の前に差し出してきたのである。

「あっ、えっ、えぇ…」
　わたしは戸惑いながらも、その20円と、あの時のレシートを受け取った。

　えっ、なに…

　その20円を手渡された時に、なんとなく和哉の目が何かを語り掛けてきた気がしたのであった。

　あっ…

　すると、その20円と一緒に手渡されたレシートに

　和哉の携帯電話番号が書いてあったのだ…



「じゃ、ごゆっくりどうぞ…」
　そして和哉はわたし達家族にそう声を掛けて、離れて行った。

「なんかぁ、真面目そうで優しそうな先輩じゃないのぉ」
　すると、姉は康ちゃんに言う。

「うん、そう、そうなんだよ、俺は和哉さんに、入店当初の初めから、色々と面倒みてもらってんだよね…
　あ、そう、和哉さんはさぁ、駒澤大学の４年生なんだわ…」
　そう母親である姉に康ちゃんは応える。

　えっ、駒澤大学…

　そうか、駒澤大学に入学したのか…

　そうか…

『実家はねぇ、駒澤大学の近くなのよ…』

『えぇ、じゃあ、駒澤大学に進学しようかなぁ…』

　そんな、あの五年前の、和哉との会話が脳裏に蘇ってきていた。

　そうか、そうなんだ…

　『駒澤大学…』

　あれが和哉の、彼の、唯一の手懸かりになったって訳か…

　やはり、この再会は偶然ではなく、必然だったのだ。

　いや、和哉の執念なんだ…

　わたしは昂ぶる想いを感じながら、電話番号の書いてあるレシートを見つめてそう、想っていたのである。