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胡蝶の夢
第9章 華

俺が倒してしまったグラスを拾い上げて圭が微笑んでいる。
「怖がらないで……僕は君の味方だ」
震える手を支えてスープを口元に運んでくれる。
俺はコイツのこの優しさが嫌いだった。
「やめろっ!!」
腕を振り上げるとその手は圭の腕に当たって、スプーンが床に転がり落ちた。
スープだったものがただの床のシミに変わる。
「圭様っ」
黒スーツの使用人が飛んできて圭のそばに寄り添うのを冷めた目で見下ろした。
使用人が鋭くこちらを睨み付けている。
「圭様になんて事を…」
圭を背に庇う様にしながら使用人は俺に敵意を向けた。
そうだ。
同じ黒崎家子息の立場に有りながら、圭と俺には雲泥の差がある。
同じ不明瞭でも、空に霞む雲と地に淀む泥水が違う様に。
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