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胡蝶の夢
第9章 華
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追蹤は断片的に駆け抜けた。
過去など…。
想っても変えられないものなら、思い出す分だけ時間が無駄だ。
それでも何故か思い出すのは、心の隙を突いた僅かな撓みかも知れない。
「寛継…、部屋に戻る」
「はい」
声をかけると扉の陰から寛継の声がした。
怯えて小さくなっている想世を一瞥してから歩き出す。
『不愉快』か…。
いつからなりたくないものになったのだろう。
絶対に親父の様になりたくないと、そう願っていたはずなのに。
あんなに嫌っていたのに。
悲しい事だな。
「直弥様、今日はどういたしますか?」
控えていた寛継が頭を垂れて畏まっている。
「いつも通りだ」
「はい…」
俺が答えると寛継は短い返事を残してその場を後にした。
寛継という男は何を思うのだろう?
彼の背中を目で追い思う。
何を思いまだこの俺に仕えるのだろう?
強くなればすべてが意のままになるはずだった。
すべてが手中に入るはずだった。
けれど、現実は何もかも不自由で不理解だ。
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