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胡蝶の夢
第2章  月 




「俺を無視するとはどういう了見だ…?」



倒れた彼の横顔を踏み付ける靴底。



「ベルが鳴ったら跪いて迎えるんだったろう?」



兄の言葉とは思えませんでした。


穏やかな物腰で人付き合いの上手な兄。


それがまさか…。


そのまま兄は汚いものでも扱う様に爪先で彼を蹴って転がしました。



「うっ…」



痛みと屈辱に歪む彼の美しい顔。


薄く笑みさえ浮かべる兄。


その対比はあまりに無残でした。




「お前は父親に切り捨てられたんだ」



「……」



倒れた椅子をおこすと、兄はそこに座り、足を組んで靴先を差し出しました。



「ほら…俺への忠誠に靴を舐めろよ。犬の様に舌を出して」



倒れていた彼の身体がゆっくりと動きました。


起き上がると、跪き、両手で靴に手を伸ばします。





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