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胡蝶の夢
第2章 月

兄はとても才能豊かな人でした。
父が兄に事業の一部を任す様になったのは必然で、いつ父に代わるかと噂される程でした。
あまりに遠い兄。
兄の存在は私にとって憧れであり、同時に劣等感の象徴でもありました。
なんでも出来る完璧な兄と、一人では何も出来ない私。
欲しいものはすべて手に入れる兄と、与えられるまで待つしかない私。
みんなに必要とされる兄と、代えのきくお飾りの私。
兄は私と正反対の完璧な人間でした。
そのはずでした。
けれど目の当たりにしたのはその兄のもうひとつの姿。
「……聞いてんのかよ!!その鬱陶しい曲、弾くの止めろっ」
そう言って兄は彼が座っていた椅子を思い切り蹴り倒し、不意を突かれた彼は撓んで、そのまま横倒しに床に打ちつけられました。
声もなく、甘んじて受けたかの様に。
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