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胡蝶の夢
第3章  深淵 




あの男は何度もくり返し言った。


「お前は父親に棄てられたのだ」と。


事実、そうなのだろう。


当初差し出せと言われたのは、僕の妹であったそうだ。


この部屋の外に幾人もの狂った女たちを見た。


あの趣味を思えば、妹を守れて兄として嬉しい…。


けれど、何故僕だったのか?


父は何故僕を…?


跡継ぎの長男ではなく。


有能な次男でもなく。


可愛いたった一人の娘でもない。


父は最も不必要な者をスケープゴートに差し出した…。


ピアノしか能が無い、御家の存続に最も不利益な三男。


この僕の事を…。


僕を黒崎家の奴隷とし、名家復興への莫大な財を得た。


憎い。


全部憎い。


父が。


アイツが、黒崎直弥が。


黒崎家が。


すべてが憎い。





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