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胡蝶の夢
第5章 有罪
天井から吊るされる様にして浮かび上がったのは、彼でした。
白と黒に見えたのは私が差し入れた洋服です。
「想世…、知っているか?」
兄はキリキリと滑車の鎖を巻き上げながら、それはまるで独り言の様に虚ろに話し始めました。
「この世で最も残酷な拷問とは希望なんだ」
明朗な兄には似合わない口調でした。
ここにいない誰かを見ている様な、そんなぼやけた視線を泳がせています。
「届きそうで届かない希望ほどの絶望は他に無い。はじめから持っていない希望よりも、失望は何よりも恐ろしい…」
ふふふ
ふははははっ…
そしていきなり高らかに笑い始めました。
「お兄様…」
私の呼び掛けにも気付かずに、異常な笑いが乾いた空気を震わせます。
「人の上に立て!!常に誰かを支配しろ。抗えない絶対的な力で制圧しろ」
その言葉は私に話しかけているのではなく、まるで自分に言い聞かせている様でした。
兄はおかしくなってしまった…。
狂ってしまった。
いや、本当はもう初めから壊れていたのかも知れません。
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