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胡蝶の夢
第5章 有罪
なんだか芝居を見ている様でした。
目に映るものから現実味が消えていくのです。
非現実だと思い込もうとしているのでしょう。
私はいつだって全てから逃げて生きてきたのですから。
そんな奴、誰も必要としてくれなくて当たり前でした。
必ず裏切られると知っている期待など、誰もしようと思うはずが無いのです。
現にほら、この部屋に私はいません。
美しい二人の男優が演じるのを舞台の下から傍観する存在しない観客のように、私はここにいて、ここにいない。
「うっ…」
兄が彼の顎を持ち上げ、そっと囁きました。
「不要だから捨てられたゴミに、帰る場所など無いだろう?」
顎を上げられた最も力の入らない無力な格好で、それでも彼は静かな目で兄を見据えていました。
キリキリと音がして、彼を吊り上げていた鎖がまた一層巻き上げられました。
つま先が床につかないギリギリの場所まで引き上げます。
「ゴミのくせに居場所を選ぶなよ。飼ってやるから、無様に腐り果てろ」
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