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胡蝶の夢
第5章 有罪
私は兄を見つめました。
その表情からは感情というものをはかり知る事が出来ない様な、なんとも奇妙に歪んだ顔で兄は立っています。
「脱走の罰には絶望を…」
キリキリと引き上げられた鎖は、丁度彼が床に立ち上がる程の高さで止められました。
「起きろよ」
パンッ
乾いた平手の音が何度か響き、その末に彼は目を覚ましました。
その顔には叩かれた赤い跡がすでに浮かんでいます。
「くっ…うぅ」
「気絶している場合じゃないぞ」
眩しそうに開かれた彼の目は虚ろに部屋を見回していました。
その目はすでに私を個人としてとらえる事は無く、まるで部屋の家具を見るように一度見回しただけでした。
「また…、この部屋か」
両腕を上げ、手首を吊られた状態で彼はボソリと呟きました。
何かを諦めた様な力のない声でした。
「ここから逃げられると思うな。ここの他に貴様の生きる場所などない」
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