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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第2章 私は推しが好きすぎる
「……わかりました。その提案で受け入れます」
 私が頷けば、先輩も元の笑顔を取り戻す。
「うん、じゃあ決まり。行くよ」
「へっ」
 言うや否や、先輩に手首を掴まれて走り出す。吹き荒れる雨風に煽られながら、暗闇の中を彼と必死に突き進んだ。
 先輩のペースに合わせて走ると、途中で足がもつれそうになる。小さな水溜まりを踏む度に、パシャパシャと水飛沫があがり足元を濡らした。
「せ、先輩っ、まって……ッ」
「ほら頑張れ。あと少しで着くから」
 その言葉に顔を上げた時、目線の先に見覚えのある看板が見えた。遠くに眺めていたはずのラブホが、すぐ間近まで迫っている。
 入口の看板にはまだ消えることのない「空室」の文字が、チカチカと瞬きながら存在感を主張していた───。





 不安がないと言えば嘘になる。
 でも、優しくて後輩想いの先輩の事だ。ラブホに宿泊となると私が怯えると思ったから、『絶対に何もしない』と真っ先に伝えてくれたんだ。その気持ちに嘘はないと思いたい。
 出張に出向いた社員同士が、その日のうちにラブホに行くなんて非常識だけど、本来は直帰の予定でスケジュールを組んでいたから、宿泊先の領収書なんて手元には残らない。残ったとしても会社に提出する必要もない。ラブホに寝泊まりしたことがバレなければ、会社側には『直帰した』『問題は何もなかった』で通る話だ。

 だからどうか、何も起こりませんように。
 謎の予感めいたものを感じつつ、胸の内でそう祈るしかなかった。


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