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それが運命の恋ならば
第6章 新たなる運命
…いにしえの耽美派の文豪が描いた古き良き時代の面影を色濃く残す武蔵野の森の奥に、高遠本家はあった。
鬱蒼と繁る森はさながらシュバルツヴァルトの黒い森…グリム童話に出て来る風景のようだ。
近隣には家も何もない。

瀟洒な煉瓦造りの三階建ての洋館は、文化財に登録されるべき貴重な西洋建物だそうだ。

「…かのTホテルを設計した建築家もこちらのお屋敷を見学に来られたほどなのです」
緩く螺旋を描く大階段をゆっくりと昇りながら、細やかに説明してくれたのは、家政婦の律という老女だ。
一見険しい顔つきがトキに少し似ていると凪子は親しみを覚えた。
律は襟の詰まった黒く裾の長いクラシカルな制服を身につけていた。
高遠家は万事が西洋風らしい。

律のウエストにつけられているのは銀の鍵束だ。
それは律の家政婦の威厳を示すかのように、じゃらじゃらと低い音を立てた。

室内の意匠や調度品はヴィクトリア朝のものだそうだが、西洋建築に疎い凪子には、まだよく分からない。
いわゆる英国貴族が華やかに存在した時代にタイムスリップしたような美しいお屋敷だと眼を見張る。

律は、そんな凪子を意外なほどに温かな眼差しで見つめていた。

「…旦那様によく似ていらっしゃる…」
そこには敬意の色が宿っていた。
律はもう既に凪子を高遠家の令嬢と認めているようだった。

「…さあ、凪子様。
旦那様がお待ちかねでございます」

恭しく頭を下げ、律はこの家の当主が待つという奥の居間のドアを静かに押し開けた。


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