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それが運命の恋ならば
第6章 新たなる運命
…窓辺近くに置かれたゆったりとした長椅子に、初老の男性が座っていた。
上質そうなガウンに部屋着姿…。
…痩せてはいるが、すらりとした長身の身体、整った典雅な容貌、当たりを払うような高雅な品格…。
冒し難いような不思議なオーラが感じられる人物だった。
…恐らくは高遠泰彦、その人だろう…。

凪子は緊張のあまり、脚が震えてきた。

…けれど…

「…凪子…。
…君が凪子なのか…?」
泰彦は入って来た凪子の貌を見るなり、感激に声を震わせた。
それは優しく、どこか懐かしいような声色だった。

…この方が…私の…

「…はい。
…あの…初めまして…」

泰彦がほっそりとした手をそっと差し伸べた。
「もっと近くに来てくれ…。
私によく貌を見せてくれ…」
懇願するような、繊細な声だった。

「…はい…」
凪子は長椅子の傍に歩み出した。

その手をおずおずと握りしめる。
…骨張っているが温かな、凪子の心ごと包み込むような手だった。
緊張で張り詰めていた心が、温かなお茶に浸された砂糖のように溶けてゆく…。
凪子は彼の傍に膝を突く。

その桜色の口唇から、自然に言葉が漏れた。

「…お父様…」
美しい瞳から涙が溢れ、白磁のような頬を濡らしてゆく…。

泰彦は凪子の面影を宿す瞳を見開いた。

「…お父様と呼んでくれるのか…!
こんな…不甲斐ない父親を…!
君を二十年間も探し出せなかった…。
辛く寂しい思いをさせてしまった…。
こんな…酷い父親を…お父様と、呼んでくれるのか…!」 

凪子は貌を伏せ、懸命に首を振る。
「…いいえ…いいえ…!
…探してくださって…ありがとうございます…」 

…天涯孤独だと思っていた。
母親は亡くなっていると聞いたとき、まさか父親に会えるとは思ってもみなかった。

「…私…私は…」
あとは言葉にならず、啜り哭く凪子を泰彦はその胸に強く抱きしめた。

「…凪子…!私の血を分けた娘…!
…まさか…この手に抱ける日が来ようとは…!」
嗚咽を漏らしながら、凪子の髪を優しく撫でる。

「…ありがとう、凪子…」

…生きていて、良かった…。
二人の想いが静かに重なった。

泰彦の胸の中で、凪子は幼な子に還ったかのように、泣き続けるのだった。



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