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それが運命の恋ならば
第12章 それが運命の恋ならば
禅が一歩前に進み、腕のなかの赤ん坊を李人に恭しく差し出した。
「…よく眠っていらっしゃいます…」
「…ありがとう…。禅」
李人はにっこりと笑った。
それは幸せと愛に満ちた美しい笑みであった。
李人が凪子に赤ん坊の貌を見せる。
「…今日も可愛いね」
凪子がにっこりと微笑む。
「…はい。ご機嫌で眠っていますね…」

ケンが尋ねる。
「赤ちゃん、名前は?」
「…李緒那。りおな…っていうんだ」
「へえ…。変わった名前ね?」
「凪子ちゃんが付けたらしい。
…禅ってさ、禅那…というのが本来の正式な漢字らしい。
仏教用語らしいけど。
李は兄さんの李…だろ?
緒は永遠に続く…て意味があるんだって。
「…リーくんと禅さんと永遠に…かあ…。
なんだか凄い名前ねえ…」
…でも…と、ケンは温かな声でしみじみと続けた。

「良い名前だわ…」

凪子が李人から李緒那をそっと抱き取る。
…その貌は、神々しいまでの聖母そのものだ。

「…綺麗だな…。凪子ちゃん…」
…とても二人の夫に夜な夜な淫らに愛されているなんて、思えない。
世間的には、決して許されることではないだろう。
…けれど…
…魅惑的で、蠱惑的で、妖艶で、そして…
…誰よりも誰よりも美しい…。

…俺はこれから凪子ちゃん以上に好きになれる相手に巡り会えるのかな…。
少し不安になる。

そんな桃馬の耳元に悪戯っぽく
「…桃ちゃん、四人目に加わりたいって思ってない?」
ケンが囁いた。

「ば、ば、バカなこと言うなよ!
んなことあるわけねえだろ!」
真っ赤になり否定する桃馬の髪を、ケンはヨシヨシと撫でて見せる。

…そして、バルコニーの階段を庭園に向かい、ゆっくりと降りてくる三人を優しく見遣る。
凪子と李人は仲睦まじく寄り添い、凪子の腕の中の李緒那を愛おしげに覗き込む。
…一歩下がり影のように付き従う禅は、まるで雄々しくも限りない忠誠心を秘めた騎士のようだ。

…さながら、それは一枚の美しいピエタのように見える。

ケンは憧憬にも似たため息を吐きながら、静かに呟いた。

「…良いじゃない。
不道徳でも背徳でも。
…それが運命の恋ならば」



〜la fin〜









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