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それが運命の恋ならば
第6章 新たなる運命
ほどなくして体調も安定した泰彦は、無事に退院をした。

ペースメーカーを装着した泰彦は、日常生活を無理なく送れるようになり、凪子と庭園を散歩したり、時には行きつけのレストランに食事に行けるまでに回復した。

漸く巡り会えた娘との生活が、泰彦に生きる気力と希望を与えたのだ。


…退院の健診の際、主治医の外科部長も泰彦の健康状態に太鼓判を押した。
「お美しいお嬢様とご旅行でもなんでもお出来になりますよ。
…海外旅行は来年以降くらいにしてくださいね」

「先生方のご尽力のおかげです。
心より御礼申し上げます」
嫋やかにお辞儀をする凪子を、外科部長の傍らに立つ本田医師は切なげに見つめていた。

退院の前日に、凪子は本田医師からプロポーズを受けていた。
…けれど…

『申し訳ありません。
私は今後、どなたとも結婚するつもりはないのです』
きっぱりと断ったのだ。

『お別れになった旦那様が忘れられないのですか?
その方は貴女にとても冷たい仕打ちをなさったと伺いました。
…それでも…』

如何にも賢く一本気そうな青年医師の熱い眼差しを見つめ返しながら、凪子は淋しげに微笑んだ。
『…そうですね…。
忘れられないのかも知れません。
私を愛していないと分かっていても…。
…いいえ。一度も愛されたことはないのですけれど…。
馬鹿みたいですけれど、いつもその方のことを考えてしまうのです。
私の心は、やはりその方で一杯なのです。
…だから、私はどなたとも結婚する気にはなれないのです』

凪子は恭しく頭を下げると、本田医師から静かに立ち去ったのだった。



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