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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
その海は穏やかで、波ひとつなかった。
穏やかな春の海…。
潮風は、まるで優しい母親のように、凪子の白い頰を撫でる。
しっとり湿った海の薫りを、凪子は胸いっぱいに吸い込む。

漁港に屯ろする漁師たちはのんびりと煙草をふかしながら、網の手入れをしている。
賑やかに口にする言葉は、やや荒っぽい方言で、凪子が初めて聞くものだ。

…海を見るのは、生まれて初めてに近い。
昨日まで住んでいた京都の鄙びた尼寺に海はなかったし、そもそも海を見に行くような環境ではなかった。
…いや、そんなことは凪子には許されてはいなかった。

船着場にひっそりと降り立った凪子を、その漁師たちは露骨に好奇の眼差しで見遣った。

「…なんや、見かけん貌のおなごやなあ」
「どえらい別嬪さんやないか。
どこのおなごやろうか」

凪子は、彼らからさりげなく視線を避けるように貌を背けた。
…田舎の老人たちの悪びれない好奇心だとしても、あまり気持ちの良いものではない。

やがて、エンジン音が近づき…
「凪子様…ですよね?
お迎えが遅れまして、誠に申し訳ありません」
凪子の傍に黒塗りの大型の外車が止まり、人の良さげな運転手が貌を覗かせる。

凪子は頷き、ほっとしたように頷いた。

「…はい…」

運転手が凪子を見上げ、眩しそうに眼を瞬かせた。

「良かった…。
…旦那様…李人様がお待ちです。
どうぞお乗りください」
初老の運転手は外に回り、恭しくドアを開けてくれる。

そんな丁寧な扱いになれていない凪子は、恐縮しながら、車に乗り込んだ。
「…ありがとうございます…」

「…お荷物は…」
凪子の手にした小さなボストンバッグ一つを見つめ、運転手は不思議そうな貌をする。

「…そちらだけですか…?」

凪子はぎゅっと、バッグを握りしめ、頷いた。
「…ええ…。
…これだけです…」
…これだけだ。
これが、私の全財産なのだ…。
引け目と侘びしさと…諦めの気持ちが胸に満ち溢れる。

運転手はさして気に留めず、にこにこ凪子に笑いかけながら、エンジンを掛けた。

「そうですか。
では、出発しましょう。
旦那様も…一之瀬家の皆様もお揃いで凪子様をお待ちかねですからね」




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