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それが運命の恋ならば
第8章 その薔薇の名前は 〜千晴の告白〜
「政彦さんが婚約者を?」
千晴は温室の薔薇の手入れの手を止めずに、家政婦の七重の言葉を鸚鵡返しした。
「今月にこちらのチャペルでお式を挙げられるので、ご一緒にご挨拶にいらしたそうです」
千晴の住む屋敷の奥には古いチャペルがある。
明治の頃、建築家であり熱心なクリスチャンだった先祖が建てたそれは、一族の結婚式に時折使われるのみで、普段はひっそりと林の中に佇むだけの場所だけれども…。
「ふうん。それは良かったね」
生返事で答え、薔薇に水遣りを続ける。
はっきり言って、年上の政彦の婚約者になど興味はない。
二宮政彦は中学受験の際に家庭教師を務めてくれたし、優しい性格の物静かな青年だ。
決して嫌いではない。
けれど、その婚約者に会うのは些か億劫だった。
…母様のガブリエル、今年も綺麗に咲いたな…。
千晴は安堵から微笑む。
白薔薇はどれも気高く美しいが、ガブリエルは特別だと千晴は思う。
この天使の名前の薔薇は、神秘的で辺りを払うような気品があり、それでいてどこか、ひんやりと官能的であるのだ…。
「…その婚約者の方ですが…」
珍しくわずかに高揚したように七重が口を開いた。
ポーカーフェイスが常の七重には稀なことだ。
「うん?」
「…亡くなられた奥様に、生き写しでいらっしゃいます」
千晴の手のひらの中で、ガブリエルがふわりと揺れた。
千晴は温室の薔薇の手入れの手を止めずに、家政婦の七重の言葉を鸚鵡返しした。
「今月にこちらのチャペルでお式を挙げられるので、ご一緒にご挨拶にいらしたそうです」
千晴の住む屋敷の奥には古いチャペルがある。
明治の頃、建築家であり熱心なクリスチャンだった先祖が建てたそれは、一族の結婚式に時折使われるのみで、普段はひっそりと林の中に佇むだけの場所だけれども…。
「ふうん。それは良かったね」
生返事で答え、薔薇に水遣りを続ける。
はっきり言って、年上の政彦の婚約者になど興味はない。
二宮政彦は中学受験の際に家庭教師を務めてくれたし、優しい性格の物静かな青年だ。
決して嫌いではない。
けれど、その婚約者に会うのは些か億劫だった。
…母様のガブリエル、今年も綺麗に咲いたな…。
千晴は安堵から微笑む。
白薔薇はどれも気高く美しいが、ガブリエルは特別だと千晴は思う。
この天使の名前の薔薇は、神秘的で辺りを払うような気品があり、それでいてどこか、ひんやりと官能的であるのだ…。
「…その婚約者の方ですが…」
珍しくわずかに高揚したように七重が口を開いた。
ポーカーフェイスが常の七重には稀なことだ。
「うん?」
「…亡くなられた奥様に、生き写しでいらっしゃいます」
千晴の手のひらの中で、ガブリエルがふわりと揺れた。