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それが運命の恋ならば
第8章 その薔薇の名前は 〜千晴の告白〜
「お離しになって…。
人が来ますわ…」
子どもの悪戯を嗜めるように、紫織が囁く。

「離しませんよ。
貴女はあの日の約束を忘れてしまわれたのですか?」
必死に掻き口説く。
…僕が大人になって、貴女が僕に恋をしたら…

紫織は意図が読み取れぬ濡れた眼差しで千晴を見上げる。
「…大人になられた貴方には、たくさんの責務と義務が待ち構えておられるでしょう…」
千晴が訝しげに眉を顰める。

「…貴方はこの高遠一族にとってなくてはならない方になられたのです。
近い将来、この一族を束ね、統べる方は千晴様…貴方おひとりなのです」

…もう、戯れが許されるお年ではないのですよ…。
冷淡に告げると、紫織は驚くほどの強さで千晴を突き放した。

…そうして…

「私のことはお忘れください。
…私は皆様が噂される通り…誰にでも靡く娼婦のような淫らな女なのですから…」

その黒い瞳に妖艶さと、冷ややかさを同時に浮かべ、優雅に一礼すると、陽炎のようにその姿を消したのだった。



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