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それが運命の恋ならば
第9章 その薔薇の名前は 〜ローズガーデンの恋人たち〜
「…支度は整ったのかね?」
軽やかなノックののち、泰彦が貌を覗かせた。
「お父様…」
振り返る凪子に泰彦が眼を見張り、満足そうに微笑んだ。
「…なんと美しい…!
さすが千晴は趣味が良いな。
凪子に何が似合うかをよく分かっている。
お前たちは似合いの二人だ」
凪子は困ったように瞬きをした。
「…お父様…。
千晴様には愛しているお方がいらっしゃるのですよ。
…それに私も…」
「…凪子」
みなまで言わさずに、泰彦は凪子の白い頬にそっと触れる。
「紫織さんは人妻だ。
許されない恋なのだよ。
…千晴は分別を知っている。
これ以上踏み出すことはないだろう。
…お前もだよ、凪子」
幼な子に言い聞かせるように、髪を優しく撫でる。
「李人くんのことはもう忘れなさい」
凪子は息を呑む。
「お父様…!」
「お前が思い続けても李人くんはもう振り向かないだろう。
…私たちと彼の家は因縁が深すぎるのだ。
新しい人生を踏み出しなさい」
「でも、私は…!」
李人の面影が胸に浮かぶ。
…あの方を…
「千晴はいずれ私の跡を継ぎ、この高遠一族を統べる当主となる。
その妻に相応しいのは、私の血を引くお前しかいないのだよ」
それは厳しく冷徹な口調であった。
歴史ある比類なき名家の当主の責任と重責と矜持に溢れた重々しい言葉…。
…引いては、凪子の自覚を促す言葉でもあった。
哀しげに俯く凪子に、泰彦は慈愛に満ちた笑みを送る。
「…千晴はお前を好きだと言った。
もっとお前を知りたいとも…。
千晴が紫織さん以外の女性に心を動かされたのは初めてだよ。
お前たち二人ならきっと最高のパートナーなれるだろう」
「お父様…」
泰彦は凪子の手を取り、軽くキスをした。
「…さあ、ガーデンパーティーを楽しんでおいで。
…ただし、薔薇の女神に嫉妬されないようにね」
軽やかなノックののち、泰彦が貌を覗かせた。
「お父様…」
振り返る凪子に泰彦が眼を見張り、満足そうに微笑んだ。
「…なんと美しい…!
さすが千晴は趣味が良いな。
凪子に何が似合うかをよく分かっている。
お前たちは似合いの二人だ」
凪子は困ったように瞬きをした。
「…お父様…。
千晴様には愛しているお方がいらっしゃるのですよ。
…それに私も…」
「…凪子」
みなまで言わさずに、泰彦は凪子の白い頬にそっと触れる。
「紫織さんは人妻だ。
許されない恋なのだよ。
…千晴は分別を知っている。
これ以上踏み出すことはないだろう。
…お前もだよ、凪子」
幼な子に言い聞かせるように、髪を優しく撫でる。
「李人くんのことはもう忘れなさい」
凪子は息を呑む。
「お父様…!」
「お前が思い続けても李人くんはもう振り向かないだろう。
…私たちと彼の家は因縁が深すぎるのだ。
新しい人生を踏み出しなさい」
「でも、私は…!」
李人の面影が胸に浮かぶ。
…あの方を…
「千晴はいずれ私の跡を継ぎ、この高遠一族を統べる当主となる。
その妻に相応しいのは、私の血を引くお前しかいないのだよ」
それは厳しく冷徹な口調であった。
歴史ある比類なき名家の当主の責任と重責と矜持に溢れた重々しい言葉…。
…引いては、凪子の自覚を促す言葉でもあった。
哀しげに俯く凪子に、泰彦は慈愛に満ちた笑みを送る。
「…千晴はお前を好きだと言った。
もっとお前を知りたいとも…。
千晴が紫織さん以外の女性に心を動かされたのは初めてだよ。
お前たち二人ならきっと最高のパートナーなれるだろう」
「お父様…」
泰彦は凪子の手を取り、軽くキスをした。
「…さあ、ガーデンパーティーを楽しんでおいで。
…ただし、薔薇の女神に嫉妬されないようにね」