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それが運命の恋ならば
第11章 ふたつの月
「ああ、そんな悲愴な貌をしないで、凪子。禅もだよ」
李人に穏やかに促され、連れてこられたのは居間だった。

「少し冷えてきたね。
温かいお茶を淹れよう。
二人とも座って」
李人の口調も表情も穏やかなままだ。 
いや、朗らかと言ってもよい、不思議な雰囲気を纏っていた。
まるで、先程の光景を何も見ていなかったかのように…。

言われるままに長椅子に座り、凪子は身を硬くする。
おずおずと李人を見上げる。

「熱いダージリンにしよう。
…コニャックを垂らすのもいいな。
ティーロワイヤルだ。
大学の時、イギリス人の留学生に教わったよ。
口当たりが良いから凪子にも飲める筈だ」
どこか愉しげにダイニングキッチンに立ち、優雅な仕草でお茶を淹れる李人は、まるで何ごともなかったかのような平静さだ。

…いや、そんな筈はない。
二人が何をしていたか、何を語らっていたか、李人はすべてを見聞きしていた筈なのだ。

…このまま、三下り半を突きつけられるのだろうか…。
李人は愛する母親を許されぬ恋の縺れから亡くしている。
きっと不義は許さないだろう。
凪子の胸は張り裂けそうに痛んだ。
…李人を、この美しい夫を、愛しているのだ。
心から。
彼と離れることを考えると、身を斬られるように辛い。

凪子の苦しげな横貌を見るなり、禅は意を決したように土下座をした。
そうして、猛然と叫んだのだ。

「旦那様、どうかお許しください。
奥様は何も悪くはありません。
悪いのは私です。
私は奥様を無理やり誘惑しました。
力づくで自分のものにしようと、無理強いしたのです。
ですから、罰するのは私だけにしてください。
奥様を許してくださるなら、私はどんな罰でも甘んじて受けます」



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