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それが運命の恋ならば
第12章 それが運命の恋ならば
…部屋の奥から現れたのは、極上の正装姿の李人と、純白の総レースのアフタヌーンドレスを纏った凪子だ。
その美しく結い上げた髪には、コンテ・ドゥ・シャンボールのペールピンク色の薔薇が飾られている。
それは、高遠家に代々受け継がれている象徴の花だ。
きっと、高遠泰彦氏が凪子に贈ったのだろう。

そして、二人の背後には影のように控える禅の姿があった。
純白のおくるみに包まれた新生児を抱くのは、黒の羽織と着物姿の禅だ。
…まるでそれは、野性的であり、禁欲的でもある黒子のようだった。

禅は宝物を抱くように、赤ん坊を抱いていた。
時折覗き込むその眼差しは、温かな慈愛に満ちていた。

「…ねえ、結局さ、赤ちゃんはどっちの子なの?」
密やかにケンが耳打ちをする。
「…知らないよ、そんなの。
一応兄さんの子…てことなんだろうけどさ…。
…でも、不思議なことに、どちらにも似てるんだよなあ…」
「へえ?」
「兄さんと禅って全然似てないだろ?
でも赤ん坊は…どちらの面影もあるんだ…。
…ミステリーだよ、マジで」

…本当にそうだった。
凪子が産んだ男の子は、李人にも禅にも似ていた。
産褥のベッドの中で、凪子は産んだばかりの赤ん坊を、ナースから受け取り、じっと見つめたのち、静かに微笑んだ。

「…なんて美しい子…。
…旦那様にそっくりだわ…」

傍らにいた桃馬は、息を呑んだ。
ナースは単なる惚気と受け取っただろう。
けれど桃馬は、知っているのだ。
凪子と…李人と禅との禁断の秘密を。

…旦那様とは、李人と禅、ふたりのことなのだ。
凪子は覚悟を決めたのだろう。
どちらの手も取り、生きてゆくことを…。
気負うこともなく、あるがままを受け止め、粛々と…そして、したたかに…。
…そんな凪子は、以前に増して眩しいくらいに美しく…穢れなき聖女のようだった。







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