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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
…次に目覚めた時、寝室には明るい朝陽が差し込んでいた。
微かに潮騒が聴こえた。
もう、かなり陽は高いらしい。
凪子は一人、綺麗に整えられた褥に寝かされていた。
李人の姿はそこにはなかった。
もちろん、禅の姿も。

…凪子は紅絹の長襦袢ではなく、新品で清潔な白い絹の夜着をきちりと身につけていた。

男の精液に塗れているはずの身体は綺麗に拭かれているようで、さらりと乾いていた。
…おそらくは、李人か…禅が後始末をしたのだろう。
それも屈辱に感じてしまうほど、凪子の心は傷つき、沈み込んでいた。

更に、胸の中に重くのしかかるのは、哀しみと苦しみだ。

…愛されていないのに…。
新たな涙が溢れ出し、枕を濡らす。

…妻として、女として、愛されていないのに、これからもあのような夜を過ごさなくてはならないのか…。
更に、辛いのはあの庭師がこれからも夫婦の夜の営みに立ち会うという異常な事態だ。

…他人の男に…裸も…恥ずかしい行為も何もかも晒さなくてはならないなんて…!

哀しみ、苦しみ、屈辱感が、凪子に重く纏わりつく。

凪子は静かにさめざめと泣き崩れた。


…と、廊下を行き交う女中の声が襖越しに聞こえてきた。

「お嫁様はまだ起きてこられんやろか?」
「…まあだ寝ておられるみたいやね」
…下卑た忍び笑いが聞こえる。
「昨夜はよっぽど旦那様に可愛がられたんやろうなあ。
尼寺さん育ちやからか、見るからにおぼこいお嫁様やもんなあ。
…李人様は朝早ようから涼しいお貌で出勤されたけどなあ。
トキさんに『凪子はゆっくり寝ませてやってくれ』て言われたそうや。
ほんまに優しいなあ…。李人様は」
「ああ!ええなあ。あんなイケメンな旦那様に初夜から可愛がられるなんて羨ましい話や。
一晩くらい代わって欲しいわ。ほんまに」
「アホくさ。あんたじゃ、旦那様の方から願い下げやて」
「なんやて?あんたかて同じやないの」
賑やかな笑い声が遠ざかる。

凪子は死にたくなるような惨めな心のまま、涙を堪えて布団を引き被った。







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