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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
…次に意識を取り戻したとき、凪子は寝室の褥の上、李人に抱き込まれていた。
夜明けが近いのだろう。
障子がぼんやりと仄白い。

二人とも、一糸纏わぬ姿だが、李人の白い夜着が凪子を優しく包み込んでいた。

凪子のまだ少し濡れた黒髪を愛おしげに梳き上げながら、李人が話しかける。
「…今日、貴女の家庭教師が来ます。
後ほど紹介しましょう」
…まるで昨夜の狂瀾の営みなどなかったかのように端正で穏やかな表情と声だ。

「…どうして…?」
独り言のように呟く。

「どうしました?」
新妻を気遣うような、甘い笑顔…。

…どうして、貴方はこんなにも優しいのに…あんな酷いことを…。

しかしその言葉は形を成さなかった。
小さく首を振る。

「…いいえ…。
なんでもありません…」

その苦しい思いを飲み込むと、凪子は再び瞼を閉じた。

…眼を閉じてしまえば、この優しい夫が本来の姿なのだと信じられるような気がしたからだ。

「…さあ、もう少しお寝みなさい。
…夜明けにはまだ間がありますからね…」

美しい低音の声…。
滑らかな皮膚に覆われた引き締まった胸板…。
凪子を抱きしめる手は、ひたすらに暖かい…。

凪子は黙って夫の胸に貌を埋めた。

…この李人様が、本当の李人様なのだわ…。

自分に言い聞かせながら、温く薄暗い眠りの淵に沈み込むのだった。



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