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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
彩月の端正とれた扁桃型の目が、ファー襟にスノードーム柄という冬らしいワンピースを捉えかと思えば、彼女の手がそれを取り上げた。
まるで人形を抱く仕草だ。
一度くらいは袖を通せるだろうそれが、彼女の腕に収まった瞬間、いよいよあさひの心臓が、本人の意思を離れて高鳴り出す。
可愛いだの綺麗だの、そうした賛辞は聞き慣れている。
だが、彩月だけは、きっと本心からそれらの言葉をあさひに向けることはない。今とて嘘だと分かっている。
「ほんっと、仲良いね。二人とも、本当は付き合ってる?」
「えっ?!」
「ほらほら、剛史くんもトイレだし。お母さんも出かけてるし、ほんとのこと言っちゃいなっ」
「…………」
恋など、幸福を求めない女が憧れる夢物語だ。
あさひは育江にそう教わった。ドラマも漫画も、恋愛を主題にした作品など、物語の枠を超えないから、胸打たれるのだと。
「あさひを、もらって良いんですか?」
「さっ、さ、彩月さん?」
「あたしは結構、気に入ってますから」
「ひっ……」
今度は、洋服ではない。
彩月の腕が、あさひに直接、絡みつく。
その腕も、指も、唇も、あさひは身体に覚え込んでいる。だのに何故、今に限って、こうも切なく苦しくなるのか。