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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人







 懐かしいはずの寝台は、檻の中で眠るより落ち着かなかった。

 そのせいか、あさひの意識は、目覚まし時計が鳴るのを待たずに覚醒した。

 カーテンの隙間を薄明かりが差している。遠くに犬の咆哮や女達の話し声が聞こえるところからして世界も活動を始めているらしいことは分かるが、予定していた起床時刻よりは早いだろう。


 思いのほか帰省した気がしないのは、きっとあさひが、もうこの家の住人ではないからだ。

 昨夜も剛史が帰ったあと、志乃達がリビングを離れた隙に、育江が彩月に確認していた。
 ペットをこんなに自由にさせていて、構わないのか。あさひは皆と同じ食卓を囲っていたが、今の完璧な体型も、管理がゆるめば衰えることもあり得る。
 つまり育江にしてみても、あさひは既に手元を離れた商品なのだ。


 時に、彩月をさっきから見かけない。

 にわかにあさひは気になって、上着を羽織って部屋を出た。あの館なら下着でも歩き回れるが、実家は冷える。



 階下に至ろうとした時、リビングから話し声が漏れていた。


「──……」

「──…。──」


 どちらも聞き馴染みのある声だ。

 話というより、口論だ。


「……あり得ない。こんな偶然。昨日で確信しました。それまで考えもしなかった」

「心外なのは、私も同じ。小松原さんが意図されたことではないなら、今回は胸の内に仕舞っておくわ。お金を頂いた以上、あの方はお客さまですからね。それに考えてみれば、貴女が初めから知っていたなら、ここまでのこのこ付き添ってくるはずないものね」



「…………」


 探究心など、はしたない。

 それを教えた育江と、そして彩月の話に、あさひは聞き耳を立てないではいられない。


 彩月がここまで声を荒げるのは珍しい。加虐的な言葉つきをすることはあっても、彼女の甘く爽やかなメゾは、いつも優しい音色があった。あさひをどれだけ罵っても、彼女の声には、言いようのない感情が見え隠れしていたのに、今は違う。
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