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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
「あたしがあさひを幸せにします」
「…………っ」
「もう貴女のものじゃないなら、こちらでどう扱おうと勝手ですから」
あさひは、自身の胸を押さえていた。
煌めくような波が溢れ出していく。許容量を超えた何かがあさひを満たして、いっそ苦しい。この感覚を無理矢理に形容するとすれば、あさひは、舞い上がっているのだ。
彩月の本心が見えない。佳子のために、あさひを世話しているだけではなかったのか。
ややあって、冷ややかな祖母の声が続いた。
「フンッ……犬の分際が」
「どういう意味です」
「家政婦なんて嘘でしょう。貴女だって持ち物に違いない……──どうせあのご婦人に買われたに決まってる!認めない……不幸になれ……お前もあいつも……出て行け!お前のせいで……──私のっ、夢まで壊すなーーーっ!!」
「っ、……」
「おっ、おばぁ──…」
物音に弾かれるようにして、あさひは今度こそ飛び出しかけた。
踏み込むより先に、勢い良く扉が開く。
あれだけ感情的になった育江も、初めてだ。誰に向けて吐き出しているのかは分からない。ただ、祖母らしからぬ酸鼻を極めた呪いの言葉は、永遠に続くのではないかと思われた。
志乃達が起き出してくる頃には、育江は通常の顔に戻っていた。
朝食の間も、彼女らの間に変わったところは見られなかった。