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秘匿の闇市〜Midnight〜
第7章 救済と矛盾
ラメ入りグロスを塗りたくった唇にキスすると、林が淫らに顔を歪めた。ありきたりな褒め言葉をかけながら、片手の指と指の隙間を埋めて、太ももを少し撫でるだけで、暗示にかかった人形のようにその先の行為をねだる。
彩月は広い館の一室で、花蜜を落としたミルクのような匂いをまとう、佳子の友人を組み敷いていた。
羽毛布団に背中を沈めた林の黒目がちな目が、無防備に彩月を見上げている。
二つ歳上の彼女は、見た目よりずっと幼い。学生時分、彩月のいる教室を訪ねてきては俯きがちに手紙を押しつけていった下級生らの中に、彼女のような少女もいたのではなかったか。
「はぁっ、はぁ……恥ずかしい、……私、変じゃないですかぁ?」
「綺麗だよ。あんまり謙遜ばかりしてたら、いじめたくなるから黙って」
「んっ」
林の唇に人差し指を立てて、グロスが崩れるのも構わないで、それをなぞる。
でも、恥ずかしい。
ほんのり上気した林を見下ろして、彩月は自分自身に移ったグロスを舌に拭った。
林とは初めての仲ではない。
佳子が特に大事にしているグループの一人で、彩月がこの館に入ってすぐの頃から、しげしげ関係を所望してきた。
例に漏れず上流家庭の生まれ育ちで、彼女自身も起業家の、つまり何不自由なく暮らしているが、ここまで頻りと彼女の指名を受けていたのは、彩月が対価を辞退していたのが大きいだろうと思っていた。
だが、その方針を覆しても、林はいつも通り佳子を訪ねて、定石通り彩月を求めた。