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秘匿の闇市〜Midnight〜
第6章 欠陥していく彼女
「あさひを、ここから出す」
「そんなこと、っ……」
「無理じゃないよ」
まるで心を読んだのではないかと思う、彩月の言葉。
「あさひがどう考えていようと、関係ない。あたしがそうしたいんだ」
彩月が続ける。
新年の明け方、彼女は育江とリビングで鉢合わせた。言い合いになり、孫を孫とも思わないような育江の言動に嫌悪を覚えて、つい口走ったことがある。あさひを幸せにする。しかし今のままでは、立花育江の思う壺だ。
「あんな啖呵切った手前、…──あの人には負けたくないし」
「聞いて、いました」
「え」
「聞こえていました。彩月さんと、おばあちゃんが話していたの。ごめんなさい。黙ってて。嬉しかった……嬉しくて、それだけで、私──…」
彩月の側にいられるなら、何も望まないと心底思った。育江に与えられた境遇は、本当に幸福だったのだと確信した。
数知れない淫らごとを悔いている。あさひは、ペットになる以前から、人間として育てられてはいなかった。
しかしこの想いは変わらない。
「どこから、聞いてたの?」
「えっと、……」
育江と言い争っていた辺りからだ。あの祖母の夢が壊れるだの聞こえたが、よく分からなかった。
あさひがそれだけ答えると、彩月が安堵の表情を見せた。
この先、あさひは本当に佳子のものでなくなることが出来るのか。分からない。それでもあさひは、救われた。少なくとも今日、咽び泣くペットを彩月が引きずり出さなくても済んだほどに。
第6章 欠陥していく彼女──完──