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秘匿の闇市〜Midnight〜
第8章 愛され少女の教育法
「交際してもいない女の慈しみ合う姿なんて、気分じゃないわ。それに彩月、貴女は誰を愛しているの」
「小松原さんだけで──」
彩月が答え終えるより先に、佳子が美影に呼びかけた。
「良いわ、やらせたのは私だもの。それを咎めるのは理に敵わないから、ほどほどにするわ」
佳子が腰を上げて、近くの棚を物色し出した。彩月達に距離を詰めた彼女が手に握っていたのは、蝋燭だ。片手で器用にライターを点けて、赤いそれに火を灯す。
つー…………
「ッンッ!」
佳子の手からしたたる蝋が、彩月に散らばる裂傷を覆う。
異様な熱が、彩月に昔を思い出させる。血の繋がらない母親が、継子に与えた疑心の熱。憎悪の疼痛。
血の気の多かった件の女が、当時傷も塞がらなかった内に、彩月に熱湯を浴びせたこともあった。
「ぅっ……」
「ただの低温蝋燭よ。貴女の傷が酷すぎて、見るに堪えられないの」
そう言って胸にも脚にも蝋を落としていく佳子は、確かに陽音とは似ても似つかない。
「はぁっ、……」
ライターを落とした佳子の指が、彩月の輪郭をやんわり捕らえる。少女のように丸い目の奥に、彩月はいつかの暗い孤独を垣間見る。
「嫌なことを思い出させてしまうなら、謝るわ。でも私は彩月を裏切らない。私には、愛された証がある…………不本意の男にだけれど。貴女にも、同じものを与えたいだけ」