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蝶の標本〜もうひとつのトパーズ〜
第6章 安息の地
麻衣子さんをとても一人には出来ないと思っていたら、
父が麻衣子さんと自分にと、
インフルエンザ罹患の診断書を持たせてくれた。


「これがあれば今週は学校を休める。
ついててあげると良い」

そんなようなことを父が言っていたのをぼんやり聞いていた。


母のことは訊けなかった。
この人が…
本当の父親だったら良かったのにと、
心の底から思いながら麻衣子さんの家に帰った。



奇妙な同居は続いた。
あの男が麻衣子さんに付き纏って連れて行こうとすることがあったり、
黒田先生と麻衣子さんのことに関する怪文書が学校に出回り、
そのせいなのか僕達が高3になるタイミングで黒田先生が遠くの学校に転勤になることが決まると、
小林くんと僕が麻衣子さんの家に住むようになったりした。


僕は正直、
これまでの人生で一番幸せな気持ちだった。


中学の頃、
学校の帰りにたまたま、大きくて重たい荷物を運んでいた麻衣子さんを手伝ってあげたことがあった。
小さいのに、よろよろしながら荷物を運ぶ麻衣子さんはとても可愛くて、
でも無口な僕は、
「運ぶよ?」としか言えなくて、
麻衣子さんのマンションのドアの前まで無言で歩いた。

「ありがとうございました」と頭を下げた麻衣子さんに、
無言で背を向けるとスタスタと早足で帰った。

高校に入って、
友達に誘われて入った放送委員会で麻衣子さんを見た時は、
あまりの驚きで声が出そうになったけど、
麻衣子さんは僕に気付いてなかった。

多分、大きな荷物で隠れてたから、
殆ど僕の顔なんて見えてなかったし、
後から知ったんだけど、
物凄い近眼のくせに、コンタクトも眼鏡も好きじゃなくて、
普段は裸眼で過ごしてるから、ヒトの顔はぼんやりしか見えてなかったらしい。


ずっと可愛いなと心の中に残っていた女の子と、
高校で偶然再会出来たことは、
本当に嬉しかったけど、
いつもニコニコしている麻衣子さんに、
自分は近付けるような人間じゃないと思うと、
声を掛けることも出来なくて、
遠くから見ているだけだった。


小林くんに誘われて、
一緒にジャズ同好会を作って演奏するようになったのは、
嬉しさもあったけど、
苦しさもあった。


中学の頃に偶然、
荷物を持ってドアの前まで来たことがある部屋に入って、
一緒に過ごすようになるなんて、
思いもよらなかった。
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