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蝶の標本〜もうひとつのトパーズ〜
第6章 安息の地
黒田先生が9月に突然、戻って来た時、
様子がおかしいと感じた僕は、
直接先生に連絡をして、
病院で検査を受けることを勧めた。


悪い予感は当たっていて、
赴任先の離島の病院では対応出来ないということも判り、
麻衣子さんや小林くんには内緒にしたまま、
父の病院に入院して貰った。

既にステージ4で、
アメリカに住んでいる黒田先生のお母さんにも連絡はした。


麻衣子さんにはとても言えなかったし、
顔に何でも出てしまう小林くんにも言えなかった。


秘密を抱えているのは苦しくて、
頻繁に父には会っていた。
父は穏やかな顔で話を聞いてくれたり、
時には医師としての客観的な意見を言ってくれたりした。

その時、母にも会うことはあったけど、
相変わらず、僕のことは知らないヒトという感じで、
よく自分でデコレーションしたという作品を見せてくれた。


立体に額装されて、飾られた僕の幼かった頃の写真だった。


「綺麗な顔でしょう?
岳人さんっていうのよ?
ほら、これはね、
蝶々のイメージの額装なの」と、
幸せそうな顔であれこれ見せてくれた。



父はそんな様子を見ると、
「岳人、すまないな。
お母さんは…岳人をまだ幼稚園児と思い込んでいて、
それを蝶々のコレクションみたいに、
額装にして閉じ込めて過ごしてるんだよ。
僕に言わせると、
僕が真っ白いマンションの箱に、
綺麗なお母さんを閉じ込めてしまっているようだけどね」
と謝る。



「あら?
貴方…どなただったかしら?
お会いしたこと、あったわよね?
お名前は?」と訊かれることもあった。


「たけひとです」と答えると、
少し目を泳がせるような表情をした後、

「そう…。
たけひとさん…。
うちの息子と同じお名前なのね?
そうなの…」と言って、
暫く抜け殻のようになってしまう。


そんな様子を見てるのが辛くなってしまって、

「僕、そろそろ失礼します」と言って、
家を出た。




「あら?
ごめんなさい。
なんだか頭が痛くて…。
また、いらしてくださいね?」と呟くように母は言うと、
父は母の肩を抱き締めるようにして、

「いつでも、またおいで?
待ってるから」と父も言った。


僕は黙って静かに頭を下げた。





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