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欲しいのは愛だけ
第12章 手にしたもの
その日の夜、帰宅した航平さんは思い掛けない話をした。

私の母に、元夫の住所を訊いて、
東北地方の小さな町に会いに行ったそうだ。


父親から継いだ過疎地域の小さな診療所のような病院に着いたのが昼過ぎで、
ちょうど休憩時間のようだった。

私の名前を出して、
現在の配偶者であることを伝えて、
2人で話をしたいと言うと、
人目があるからということで診察室に通されたそうだ。


離婚の原因になった浮気相手で、現在の配偶者である女性が、
前夜、接待先の銀座のクラブのスタッフとして席に着いて、
いきなり私を殴り倒したことを伝えると、
すぐに「怪我は?大丈夫なんですか?」と訊いたそうだ。

そして、現在の状況を説明したという。


再婚はして子供が産まれたが、
東京に居た頃の羽振りが良い生活とは違って、
質素な田舎暮らしに不満を持っていた上、
子供の血液型がどう考えても自分の子供ではないことが発覚した。

それでも縁あって結婚したのだからと考えようと思っていたが、
「こんな生活、耐えられない」と子供や自分にも手を上げるようになった挙句に、子供を置いて家を出てしまった。

男1人で育児は出来ず、
彼女の両親に連絡をしてこちらに来て貰って経緯を説明すると、
ひどく驚き、恐縮した上で、
子供を引き取るので離婚した方がご迷惑を掛けないだろうと言われて、
離婚届に署名捺印したものを託した。

その後も連絡も取れないままだったので、
裁判所に申し立てをして離婚は成立した。

彼女のご両親からは養育費は要らないと言われていたが、
彼女のご両親に毎月仕送りをしているそうだ。
彼女に渡すと、自分に使ってしまうだろうと考えたからだ。
それに、連絡先もご両親すら判らないとのことだった。

今は、町医者として、
地域の医療に関わることを細々と続けている。

メイには、本当に済まないことをしたと思っているし、
どうしてあんな女と浮気をしてしまったのかと後悔しているが、
顔を合わせる資格もないと考えている。

どうか幸せに暮らして欲しい。
また、あの女とは連絡もつかないが、
今後、何かされないように気をつけて欲しい。

こんな田舎の貧乏暮らしになったのは、
メイのせいだと逆恨みをしているのかもしれない。


そんな話をされたそうだ。


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