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欲しいのは愛だけ
第1章 港ごとにオンナって…
別の日のことだった。
その日は会社に出社していくつかの事務処理をして、
資料をピックアップして横浜に向かった。


横浜さんのマンションのリビングのソファには、
だらしない顔をした社長が座っていた。


「社長、こちら、午後の会合の資料になります」とクリアファイルを渡すと、

「青山くん、ありがとうね。
じゃあ、僕は行くよ」と立ち上がった。


「下までお見送りしますね?」と横浜さんが立ち上がったけど、
私はテーブルに資料を出してそれを見るようにして、
「お願いします」とだけ言った。


前夜から泊まっていただろうに、
廊下や玄関でキスだけじゃなく…
人工的な胸を弄ったり、
社長の股間に手を伸ばしたりしてる。


見えてるから。
っていうか、他人に見せて興奮してるの?

ホント、最低。


数日後、この日の動画や画像もクラウドに落ちて来るんだろう。



横浜さんが戻ってきた。



「青山さん、ネイル交換しますね?」と言われた。
慣れた手つきでオフする為に薬品を塗ってコットンとアルミホイルで指先を巻いていく。


「たまには、アートとかしません?」と、
サンプルを見せられるけど、

「いえ、いつもと同じでお願いします」と答えると、
同じ品番のネイルのボトルを出し始める。


オフした後、ハンドマッサージや甘皮のお手入れをしたり、
長さを整えたりしていく。
すごく気持ち良いけど、
この手で社長にもあれこれしてるんだろうと思うと、うんざりしてしまう。

しかも爪が凄い長さで、
魔女みたいだ。


「先日は、サロンの方に藤堂先生も見えたんですよ。
私は施術しませんでしたが…」と言いながら、
探るような目で私の顔を見る。

「ああ、拝見しました。
取材の時に…。
とても上品なお色でしたね」とだけ答える。


「本当にいつもの赤一色で良いんですか?」と訊かれて、
頷く。


「指先、赤いとテンション上がるんです」とにっこり笑ってみせた。



ジェルネイルの工程が終わると、
お茶をと勧められてたけどお断りして、
請求書だけ受け取ると、そのままマンションを後にした。


外に出て、大きく息を吸った。

室内で濃厚なシャネルの香水の匂いや、
社長とのあれこれの残り香みたいなものに、
ネイル関連の薬品の匂いで頭が痛くて死にそうだった。

早く退散して、正解だったと思った。



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