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重ねて高く積み上げて
第2章 私の時間
「へぇー、ってことは処女?」

「ゴフッ」

口に含んだ玉子丼が器官に入ってむせる。むせながら、背後から降ってくる聞き覚えのある声に顔を向ける。大丈夫かー、なんて呑気に言いながら背中を叩いてくれるけれど、あなたのせいですよ、高橋さん。

「お疲れ様です」

いつものクールな調子で吉野さんが会釈をしている。

絶対見えてた、吉野さんからの位置で高橋さんが見えなかったわけがない。私の言葉を止めてくれたり、視線を背後へやったり、何か合図を出して欲しかった。

そうすれば、何かを察して、口を閉じていただろうに。セクハラ大魔神にネタを提供しなかったはずなのに。

大魔神は私の背中を擦ることをやめ、吉野さんに片手を挙げる。快活な「よお」を付け加えて。

「吉野さん、今朝ありがとうな。言ってくれなきゃ上司から雷落ちるところだった。あ、ここ座っていい?」

「2人がけの席ですから、もうトレー置けませんよ」

「私はもう食べましたから、どうぞ」

吉野さんが立ち上がり、トレーを持つ。

食べるのはやっ!

普段なら吉野さんのスマートな立ち居振る舞いに関心するけれど、今回は絶望のみだ。

私、さっき、高橋さん苦手って言ったよね、もしかして聞こえてなかったのかな⋯⋯自分から話振っといて、そんな⋯⋯。

救いを求めるように見つめるけれど、そんな私を一瞥しただけで、背筋を真っ直ぐ伸ばして去っていく。彼女にお礼を言い、ご機嫌そうなセクハラ三昧の人が入れ替わる。

目を輝かせ、割り箸を割る少年のような成人男性。玉子丼を早く食べようと咀嚼スピードをあげるが、早食いの苦手な私がどう足掻いても、やはり遅い。

男性と比べるのも変な話だが、ひと口の大きさも全く違う。大口を開けて豪快に頬張る高橋さんの食べ方は、部活を終えてきたばかりのお腹の空いた男子高校生みたいだ。

「そんなに警戒するなよー。処女でも恥じることないって」

「口を開けばセクハラですね。上長に言いつけますよ」

「いや、悪かったなーと思って」

⋯⋯は?

お箸を運ぶ手が止まる。

玉子丼から顔を上げた先で目が合うと、高橋さんが気まずそうに視線を逸らす。

「処女ならスキンシップ激しいのとか、嫌だったろ?」

げんなりだ。


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