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重ねて高く積み上げて
第2章 私の時間
仕事の愚痴ばかり言う女ってどうなんだろう。それも、好きな相手に愚痴って。ユウくんの前では可愛い女の子で居たかったのに、今日は無理だった。

吉野さんは仕事を回したいために、私を高橋さんの餌食にしようとしていることが分かった。高橋さんは高橋さんで、私がユウくんを思うのと同じ気持ちで私を見ている。

思い出すだけで恥ずかしくなってくる。あんな恥ずかしいこと、平気で言えてしまうなんて、イケメン怖い。気持ちも落ち着かないし、しばらくは会いたくない。経理部に来ないって約束してくれたから、会うとしたら食堂くらいか⋯⋯。

お弁当を作る手間を考えて、頭を抱えたくなった。

「もうやだ⋯⋯助けてユウくん⋯⋯」

「助けてあげたいけど、愚痴を聞いてあげることしか出来ないな」

いつものようにヘラヘラ笑いながら、カウンターの向こう側でオレンジを切っている。指まで太くて大きいからか、元々細くて小さいペティナイフが更に小さく見えて、おもちゃみたいだ。

華金を迎えた夜だからか、のんびりとくつろいでいるサラリーマンで席が埋まっている。テーブル席で潰れている年配男性、黙々と食べているパンツスーツの女性、同じテーブルで初々しく笑いあっている男女。

店としてはいい雰囲気だと思うけれど、私は普段の2人きりで話をできる空間の方が嬉しい。ユウくん1人でも回せてしまう小さな洋食屋だけれど、注文が入ればそれなりに忙しそうだ。

少し寂しいけど、今日は帰ろうかな。机の上にお金を置いておけば、受け取らざるを得ないだろう。

ホットケーキを食べ終え、私が立ち上がると同時に、手前のカウンター席に座っていた男性が立ち上がり、そそくさとレジへ向かっている。ユウくんも調理の合間にレジへ走り、対応している。

「ハナちゃん帰る?」

お会計を終わらせた男性の後ろをついていく私を、目敏く見つけたユウくんが、ヘラヘラ笑いながら首を傾げる。

「忙しそうだし、今日は別の所で飲もうかなって。今日もありがとう、美味しかった。机にお金置いてあるから受け取ってね」

「え! ゆっくり出来なくてごめんね」

ユウくんは何も悪くないのに、ヘラヘラ笑いながら謝る。また連絡するよ、なんて嬉しいことを言ってくれるから、さっき感じた寂しさもどこかへと吹き飛んでしまった。その言葉だけで、来週も頑張れそうだ。

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