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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう
私の視線に気がついたのか、流しにお皿を置いたユウくんがへらへらと笑う。下がった目尻に幸せそうなシワが刻まれている。そのシワは、ユウくんが中学生の頃にもあった。特別整った顔をしているわけではないけれど、笑った時に出来るそのシワも、私には愛おしくて仕方がない。

「春川ってそんな風にデレるんだな」

ユウくんが布巾を持ってテーブルへ向かったタイミングを見計らったように、高橋さんが小声で、けれどちゃんと私に聞こえるように言う。存在を忘れていた。

隣を見ると、なぜか高橋さんはこちらを見ながら楽しそうに笑っている。

「……なんですか」

「いーや。笑ってるところ見たことなかったから」

ユウくんが戻ってきたタイミングで、高橋さんはビーフシチューを注文した。「ハナちゃんは?」と小首を傾げて聞いてくれるけれど、私はもうお腹いっぱいと手を振る。

「俺だけ食べてるのも変だろ」

「お土産のお酒開けてもかまいませんか? ハナちゃん、こう見えてお酒強いんですよ」

いつものへらへらした笑顔とは違う、少しキリッとした顔でユウくんがとんでもない事を言う。確かに弱くはないけれど、強いというほど強くもない。ユウくんのお店でいつも飲んでいるのだって、ワインをグラスに2杯程度なのに、どうして強いと言ってしまったのか。

隣で目をキラキラさせながら、高橋さんが「一緒に飲もうぜ」とご機嫌に笑う。ツンと尖った鼻先が、ぐっと私に近づいてくる。距離を取りながら、ユウくんを一瞥すると、にっこり笑ったままだ。

「あー、でも高橋さん、私にもお土産でお酒くれてませんでした?」

どうにか逃れたい私は、ロッカーに詰め込んできたお土産の中にお酒があったような気がする、という不確かな記憶にすがった。高橋さんが「んー」と目線を上にあげる。高橋さんはきっと沢山の人にお土産を買っているはずだから、私に何をあげたかなんて覚えていないはず。

そう思った私が馬鹿だった。

「春川には別の酒だな。強いイメージなかったからご当地チューハイあげたかな」

くっ……!

決まりだね、とユウくんが営業スマイルを見せる。それから時間があまり経たないうちに、続々と席を立つお客さんのお会計と片付けにユウくんが追われ、木箱に入ったソレが開けられるのは閉店作業をした後だった。
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