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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう
赤ワインが注がれても、グラスの縁は全身青く輝いていて、私の手元にある物と同じワインだと思えないくらいアンバランスで、何かを作る時に少し遊びを入れるユウくんらしい飲み物へ変わった。

盛り付けられたリンゴは螺旋階段状に切られており、その階段の上に小さく切られたイチゴがポツポツ乗せられている。外側で丸い飴がドーム型になって、リンゴを覆っている。雪感は全くないけれど、スノードームみたいだ。

その飴をスプーンでひと叩きして割る。

側でユウくんが「ストップ」と言って、お酒を注ぐ手を止めるように言うけれど高橋さんが「まぁまぁ、もう少し」となだめる。

どうしてこの2人は仲が良いのだろう。きっとユウくんは、他のお客さんにお酒を勧められても飲まないし、わざわざ店じまいをしてまで、私以外のお客さんを残すことはないだろう。

閉店後も居座っていられるのは、私だけの特権だと思っていたのに、どうやら違ったみたいだ。とんだ思い違いに、胸がざわざわし始める。今すぐ頭を打ち付けて、自意識過剰な私の記憶を消し去ってしまいたい。

気持ちを落ち着かせるために、他のフルーツの元へ散ってしまった飴をスプーンですくい取る。砂糖の甘みが口いっぱいに広がり、動画サイトで見るような咀嚼音が頭の中に響いて、気分が良くなる。もうひと欠片。ぼりぼり。

「いただきます」

ユウくんのこの声が好き。

いつもへらへらしていて、声も表情も軽いユウくんがこの時に限っては静かで重たい声を出す。何かの儀式を行う時みたいに。片手でグラスを持ち、大きな鼻をグラスへ近づけ、匂いを嗅いだあと、赤黒い液体を口へ流し込んだ。ユウくんの真面目な顔が合わさって、本当に何かの儀式を始めたようだった。

口へ含み、舌の上で転がした後、喉仏が上下に動く。

「どうです?」

「……チョコレートに合いそうなワインですね」

高橋さんが吹き出す。

「もしかして、オーナーって甘い物好き? まさかチョコに合いそうって言われるとは思いませんでした」

そう言って高橋さんもひと口。ユウくんが穏やかに微笑む。

「1番のお客様が甘党ですから」

へらへらと私を見て笑うもんだから、私も自意識過剰な自分を隠しながら笑い返す。薄いリンゴの螺旋階段を上からかじると、口の中に残っていた砂糖の甘みに負けた果汁が異様にすっぱく感じた。

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