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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう
木箱に入っているお酒は高級品で、やはり安物とは違うのだろうと勝手に思っていたけれど、いざ飲んでみたお土産のワインは、いつも飲んでいる安物と大きな差を感じられなかった。奥深さとまろやかな風味が違う程度で、ワインの味わい深さを知らない私には、ハードルが高かったようだ。

素直に感想を伝えると「俺も普段からワイン飲まないし、これが美味しいのかどうかわからない」と高橋さんが苦笑する。高級なものが全て美味しいものだと思うと失敗をするみたいだ。

「ごめん、ハナちゃん。すぐトリュフチョコ作るから。高橋さんはどうします?」

ユウくんが普段ケーキに使っているビターチョコレートを出してくれた。カカオ70パーセントの、ちょっと良いやつだ。小皿に乗った楕円形のチョコを口の中で砕きながら溶かし、扇のように飾り切りされたイチゴを放り込む。

「私、このチョコ好きだしこのままでも平気だよー」

明らかに動きが素早くなったユウくんに言うと「そんな失礼なこと許されないよ」とへらへら笑う。今出してくれたチョコの質は悪いものではないのだし、私の言葉も嘘ではないのだけれど、シェフがそう言うならそうなのだろう。私は、このチョコをかじりながら、のんびり美味しいトリュフチョコを待つだけだ。

「俺はビーフシチューおかわりください」

確かに、このワインはチョコには良く合うみたいだった。不思議なもので、合う肴が出てくると、渋みもえぐみも全てが調和される。さすがシェフの味覚だ。

キッチンから「お待ちくださいねー」と、普段の接客から比べると、いくらか砕けた調子の返事が聞こえた。

「チョコもらっていい?」

「どうぞ」

乾燥とは無縁そうなしっとりした指先が、楕円形のチョコレートをつまみ上げる。カウンターの仕切りを挟んだ向こう側で、チョコを刻む小気味よい音が聞こえる。

「春川、いつもこんな感じで酒飲んでんの?」

「そうですよ」

「愛されてんな〜」

「茶化さないでください。たまに申し訳なくなりますけど、嫌な顔されてないし、甘えてるだけです」

愛されている、ような気はしている。これは自意識過剰ではない。ただ、それが男女間に芽生えるようなロマンティックなものではなく、家族間であるような、信頼や団結に似たような感情が満ち満ちている愛だからやきもきしてしまう。

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