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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう
どうやら本気でそう思っているようだった。輝かしい過去として置いていたあまり、黒く醜い部分は忘れてしまったのだろうか。

「まあ、それも今となっては良い思い出だよ。あの青春時代に恋人がいたことがそもそも甘酸っぱいことだしね」

チョコを入れたタッパーを業務用の冷蔵庫に入れて「もうすぐだからねー」と穏やかに笑う。

それを見ていたら、他人の私が言えるような事もなく、おずおずと頭を引っ込めるしかない。

嫌なことを言っただろうか。ユウくんが良い思い出として保存しているなら、私がわざわざ嫌な部分を思い出させる必要はなかったのだから。フォークで果物を何回か転がし、ギザギザに飾り切りされたゴールデンキウイを口へ放り込んで、ワインをあおる。

……まっず。

「良いワインなんだから味わって飲めよ」

空のグラスにワインを注いでくれる高橋さんにお礼を言いながら「味なんてわからないって言ってたくせに」と毒づいてしまう。けれど、それすらも楽しそうに笑ってかわされるので、自分が子どもっぽく八つ当たりしたことが嫌になってしまった。

トリュフチョコはそれから間もなくカウンターテーブルに並んだ。固形チョコは入れ替わりで下げられたけれど、その頃になると私はすっかり出来上がっていて、陽気に何かを高橋さんと喋っていた。何を喋ったのかはこれっぽっちも覚えていない。

けれど、高橋さんも私も楽しく笑っていたのは覚えている。トリュフの味も、思い出せない。


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