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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう
起きた時、真っ白で清潔なベッドの上にいた。明らかに私の部屋ではない、広く暗いワンルームで、テレビがちかちか光っていた。寝転んだまま、振り返るようにしてそちらを向く。

「人間が泣く気持ちがわかった。俺は泣くことはできないが」

野太い声でそう言い、人差し指で少年の涙に触れる。鎖に足をかけた海外俳優がゆっくりと溶鉱炉の中へと降りていく。

だだっ広いベッドから上半身を起こす。人ひとり分間隔を空けた場所に、ユウくんがベッドヘッドに背中を預け、真剣な表情で見ている。何故か、温泉宿でよく見るような色の浴衣を着ている。ぼんやりとする頭と体が重たく、またベッドに沈む。

いつも使っている枕より位置が高い。頭や体は重たいのに、目だけは妙にしゃんとしていて、ユウくんの真剣な横顔を見つめる。

経験のない私でもわかる。ここは、ラブホテルだ。残念なことに、私はスーツを着たままだし、ユウくんもエッチなビデオではなく、真面目くさった顔で洋画を見ている。

私が小学生の頃、ユウくんの家で一緒に映画を見たことがあった。甘ったるくてベッドシーンもあるような、恋愛もの。小学生だったけれど、男と女が裸になってベッドの上でする行為がどういう意味を持つのか、なんとなくわかっていて顔が熱くなった。

そんな私の隣で、今と同じように人ひとり分の間隔を空けて座っていたユウくんが突然「俺、大学は隣の県の専門学校に行くことにしたんだ」と言った時、顔の熱が引いていったのを覚えている。

小さな世界で生きている小学生からすると、隣の県と言えど、海外へ行くのと同じくらいの感覚で、2度と会えないような気がしたのだ。泣くようなシーンでもないのに急にわんわん泣き始めた私を、珍しく焦ったユウくんがきつく抱きしめてくれた。初めてユウくんから私に触れたのは、それが初めてだった。

手を伸ばせば、届く場所に大きな手がある。

触れたい。

そう思った時にはもう、小指を指先で握っていた。少し乾燥している。小指なのに私の薬指くらい太くてたくましい。

「ハナちゃん……」

「んー」

「ハナちゃんの好きな人って、高橋さん?」

目線を上げた先でユウくんの真剣な目とかち合う。

あの時と同じ。私が好きな人がいる、とキッチンで打ち明けた時と同じ目をしている。

「違うよ」

そう言ったのに、ユウくんはまだ真剣な顔で私を見下ろす。
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