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重ねて高く積み上げて
第2章 私の時間
朝、歯磨きをして顔を洗って鏡の前に座る。

普通に出来ていたことが、嫌になった。目の前にうつる、自分の幼い顔つきが彼との年月の差を思い出させる。メイクで少しは縮まるかと、アイラインを強めに引いてみたけれど、童顔を隠しきれていないうえに、どこかちぐはぐだ。

悩んだ末、綿棒で目尻のアイラインを拭って、一緒に落ちてしまったファンデーションをその部分だけ塗り直して家を出る。

満員電車に揺られながら、自分の意気地のなさを悔やんだ。

あの時、私の好きな人はユウくんだよ、って言おうとしたのだけれど、意識すればするほど心臓が早鐘を打ち、震える唇から言葉が出てこない。酔いもすっかり冷めてしまうくらいだった。

そんな私を見てユウくんは、やはりいつものようにへらへらした笑顔で言った。

「ハナちゃんも年頃だもんね。俺の知らない人?」

そう言いながら場所を変わるように促され、1歩下がる。大きな背中が少し丸まって、その丸みがどうしようもなく愛おしくて、抱きつきたくなってしまった。抱きつくことなんて出来なかったのだけれど。

目的の駅に降りて、改札を目指す。

私の想い人はまだ寝ているだろうか。もう起きて仕込みを始めているのだろうか。

気持ちを伝えることは出来なかったけれど、収穫もあった。

ユウくんは今フリーだ。絶賛彼女募集中。年齢が年齢なだけに、結婚を急かされることももちろんあるようで、お節介な友人に婚活パーティーに誘われたり、女の子を紹介されたり、出会いの場を設けられているらしい。

「ユウくん、モテそうなのに」

帰り道、そう言った私に「モテてたら、こうしてハナちゃんとゆっくり帰ることも出来ないよ」と、へらへら笑った。それは困るなぁ、なんて当たり障りのない返答をしながら、内心、彼がモテないことにガッツポーズした。

とは言え、それだけ世話を焼いてくれる友人がいるのだから、いつどこでどうなってしまうか分からない。私と違ってそれ相応の女性遍歴があるユウくんだ。セックスに対しても寛容なはずで、男性なら一夜限りの関係があってもおかしくない。

そして、そこから始まる恋愛だって……。

ずっしりと肩が重くなる。

こういう時、恋愛経験のない自分が嫌になる。一夜限りから始まる恋なんて、恋愛漫画の読みすぎなのかも知れないけれど、どこまでがリアルなのかわからなくて困る。



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