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重ねて高く積み上げて
第2章 私の時間
「春川さん、相席、良いですか?」

食堂で玉子丼を食べている時だった。いつもお弁当を持ってきている吉野さんが、うどんを乗せたトレーを両手にしている。咀嚼中で喋ることが出来ず、代わりに大きく首を縦に振る。安心したように笑って、2人用の丸机の椅子を引く。

慣れていない人からすると、食堂に1人って心細いものだ。私も最初は緊張していたけれど、4人かけ席を1人で占領さえしなければ、誰かの視線を浴びることもないし、それなりに賑やかなので、ぼっち飯だとしても寂しい気持ちになることもない。

「珍しいですね、いつもお弁当なのに」

「今日は寝坊をしてしまって。作り置きも切らしていたので、どうしようもなくて」

凄い。作り置きなんて。女子っぽい。

吉野さんがズズッと豪快にうどんを啜る。普段の立ち居振る舞いから、音を立てないで食事をしているイメージを勝手に持っていた。

うどんを食べているのに吉野さんの眼鏡はひとつも曇らない。伏せたまぶたに長く太いまつげ。品よく塗られたアイシャドウがキラキラ光る。細いフレームの丸眼鏡、とても良く似合っているから何も思わなかったけれど、吉野さんって眼鏡を外すと、とても綺麗な人なのでは。

見とれていると、上目遣い気味の吉野さんと目が合う。

「ずっと聞きたかったのですが、高橋さんのこと苦手ですか?」

「えっ! わ、わかります……?」

「まぁ、多少は。セクハラ三昧ですが、悪い人ではありませんよ」

ううーん、悪い人ではないのはわかります。わかりますが……どうも、こう拒否反応が……。

玉子丼を口に入れる。甘辛い醤油と、とろとろの卵、アクセントの半生ネギが丁度よくマッチングしている。美味しいのに、苦手な人の存在を見抜かれていた動揺で美味しさも半減だ。

「体触られて良い気分にならないのはわかります」

「高橋さんにはいつも言ってるんですけどね……」

「個人的には1度、食事に行ってあげてほしいと思っています」

えぇっ!?

吉野さんからそんな言葉が出てくると思わず、大袈裟に驚いてしまい、テーブルに膝をぶつける。玉子丼とうどんが小さく跳ねる。太い麺を持ち上げ、少し顔を伏せた彼女が不思議そうに私を見上げる。

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