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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
「傘、どーした?」
台所の電気を消そうとしていたアルが、いくらか切れ上がった目を細めた。
先にベッドに潜り込んでいた真雪はもぞりと顔だけ出して、アルが見ている玄関へと視線を泳がせる。
ステンレス製のシンクに立てかけるように、玄関に男物の傘が居座っている。
少しくたびれたその傘は水気を吸って、心なしか更にみすぼらしくなっていた。
「……図書館のお兄さんが、貸してくれた」
アルは驚いたように振り返り、まじまじと真雪を見つめた。けれどそのことについては何も触れずに、ゆっくりと息を吐き出す。
「干しておかないと、ダメになるぞ」
「干す…?傘って、干すの?」
「……干すの」
そう言うと傘を掴んで玄関を出ていき、すぐに手ぶらで戻ってくる。
「傘は?」
「干した」
不毛な会話に終止符を打つように、アルが電気の紐を引っ張る。
カチャリと音がして室内が暗闇に包まれると、真雪は布団を頭までかぶり直した。
台所の電気を消そうとしていたアルが、いくらか切れ上がった目を細めた。
先にベッドに潜り込んでいた真雪はもぞりと顔だけ出して、アルが見ている玄関へと視線を泳がせる。
ステンレス製のシンクに立てかけるように、玄関に男物の傘が居座っている。
少しくたびれたその傘は水気を吸って、心なしか更にみすぼらしくなっていた。
「……図書館のお兄さんが、貸してくれた」
アルは驚いたように振り返り、まじまじと真雪を見つめた。けれどそのことについては何も触れずに、ゆっくりと息を吐き出す。
「干しておかないと、ダメになるぞ」
「干す…?傘って、干すの?」
「……干すの」
そう言うと傘を掴んで玄関を出ていき、すぐに手ぶらで戻ってくる。
「傘は?」
「干した」
不毛な会話に終止符を打つように、アルが電気の紐を引っ張る。
カチャリと音がして室内が暗闇に包まれると、真雪は布団を頭までかぶり直した。