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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
全身でアルを感じていたかった。
そうすればきっと、この不安はどこか遠くへ飛んでいってしまう。

夜に降る雨も、遠い過去の記憶も全て、アルなら忘れさせてくれる。


―――よろしければ使ってください。


不意にフラッシュバックのように甦ってきたセリフに驚いて、真雪は薄く瞼を開いた。
穏やかな愛撫に蕩けながら、何故か心がそわそわと波立つ。

なんで思い出したのだろう?

自問してみても、答えなんて出ない。


宥めるように、アルがゆったりと背中を撫でている。
その手に気持ちを集中させて、傘のことも、その時にした短い会話も忘れようとしたけれど、アルは電池切れの人形のようにゆるゆると止まってしまった。

「ぅぅ…っ…、」

ひどくくぐもった声がして、すぐに静かな寝息が聞こえてくる。
真雪は体にこもる中途半端な熱を持て余して、アルの平らな胸を軽く小突いた。

それでもアルは起きない。
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